米国スポーツ界で活躍するのはアスリートだけではなく、球団経営スタッフ、アスレチックストレーナーなど、スポーツビジネス界で活躍する若者が増えてきています。スポーツビジネスにおける日本と米国の環境の違いを、現場レベルで発信します。ブランコムはコミュニケーションシーンの中でスポーツビジネスにも注力していきます。
Renewal Factory 「リニューアル工場」:成功の鍵を握るのはシーズンチケット保有者維持
Rise Above Marketing Myopia マーケティングマイオピアを乗り越える
なぜ最初のコラムがシーズンチケット保有者維持なのか?日本でもスポーツビジネスへの関心が高まる中、なかなかトピックとしてあがらないのがリニューアル(Renewal)=シーズンチケ・・・・・・
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なぜ最初のコラムがシーズンチケット保有者維持なのか?日本でもスポーツビジネスへの関心が高まる中、なかなかトピックとしてあがらないのがリニューアル(Renewal)=シーズンチケット保有者維持。地味な存在ではあるのだが、スポーツチームのビジネスゴールとシーズンチケットの関係は非常に濃い。チケットセールスが予算立てのベースとなることを考えれば、その重要性は自然とわかるだろう。
パレートの法則は例として「顧客の20パーセント(=ゴールド顧客)が売上の80パーセントを生み出している」と挙げている。正確に80:20になっていることはないが、スポーツチームにとってのゴールド顧客がシーズンチケット保有者なのだ。また、同様に新規顧客獲得コストは既存顧客維持の5倍かかるとも言われている。それを考えると新規顧客獲得よりもゴールド顧客へのサービスを高めることの方が効率が良いというのは言うまでもないだろう。
安定したシーズンチケットベースを抱えることは、1試合ごとのチケット売上を安定させると共に、チームの勝敗に影響されにくいチケット購入者ベースがすでに存在することになる。それは、マーケティング、スポンサーシップ、チケットセールスなどチーム全体に大きな影響を与えるのだ。シーズンチケット保有者維持に向けた顧客調査、分析、リレーションシップマーケティング等への長期的投資が、「マーケティングマイオピア」を乗り越えることを可能としているのだと思う。
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Season Ticket Holder-Centric シーズンチケット保有者中心モデル
このシーズンチケット保有者維持の中で中心となっている部門が、シーズンチケットサービス部。シーズンチケット保有者とのコミュニケーションを欠かさずに取るのはもちろん、シーズンチケ・・・・・・
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このシーズンチケット保有者維持の中で中心となっている部門が、シーズンチケットサービス部。シーズンチケット保有者とのコミュニケーションを欠かさずに取るのはもちろん、シーズンチケット保有者対象イベント企画などもしている。シーズンチケット保有者がリーグで一番多く、数千人いるマイアミ・ヒートの場合、10名のスタッフがこの部に属している。
さらにシーズンチケット保有者とチームの距離を縮めるための取り組みとして、ヒートは「バディ・システム」を取り入れている。これは正社員ひとりひとりが数十名のシーズンチケット保有者を担当するというもので、私もシーズンチケット保有者とシーズンを通して電話やEメール、クリスマスカード、試合中であれば直接会って連絡を取っている。社長も自らバディ・システムに参加していることからも、チームがどれだけ力を入れているのかが分かる。
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Know Your Customer & Predict the Future 顧客を知り、未来を予想
ここで私の部署Research and Database Marketing Servicesを紹介したい。部長が1名、マーケットリサーチ担当1名とデータベースマーケティング担当の私の3名だ。シーズンチケッ・・・・・・
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ここで私の部署Research and Database Marketing Servicesを紹介したい。部長が1名、マーケットリサーチ担当1名とデータベースマーケティング担当の私の3名だ。シーズンチケット保有者維持に直接関係はなさそうに見えるが、この部署の役割は意外と大きい。
まずは昨シーズン終了後に様々な角度でシーズンチケット保有者と更新率を分析、それを基に各シーズンチケット保有者の更新リスクを予測するリスクスコアのモデリング。シーズンチケットサービス部はこのスコアを基に連絡すべき顧客の優先順位を付けている。このスコアが無かったときは数千人のシーズンチケット保有者の中で誰から連絡を取るべきなのか四苦八苦していたという。
次は来シーズンのシーズンチケット価格設定プロジェクト。ここでもデータ分析を基にチームが進むべき方向を推薦し、社長はもちろんオーナーにもプレゼンを実施。ヒートは2シーズン前からシーズンチケット更新時に3年プランを選択することが可能で、価格設定時に既存3年プランの価格、新規1年プランと3年プランの価格、今シーズンの一般販売価格等同じ席でも価格が違い、その比較が必要なので一筋縄ではいかないが、それもこのプロジェクトの楽しい点である。
そして現在進めているのが、3年プランを選択したシーズンチケット保有者を対象としたフォーカスグループ。2007−08シーズンが3年プラン最終年となるので、今から彼らの思いや考えを知ろうという試みである。
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Always Be Prepared 常に準備を
リーグ内でもっともシーズンチケット更新期間が早く始まり早く終わるヒートは、あと1週間で更新プロセスが終了する。現時点で昨年よりも順調に更新オーダーが入ってきているのは嬉しい知・・・・・・
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リーグ内でもっともシーズンチケット更新期間が早く始まり早く終わるヒートは、あと1週間で更新プロセスが終了する。現時点で昨年よりも順調に更新オーダーが入ってきているのは嬉しい知らせである。今年のヒートはリニューアルをより印象付け、楽しくするために特別キャラクターを起用している。テーマは「チャールズとリニューアル工場」。映画「チャーリーとチョコレート工場」でジョニー・デップが演じたチャーリーをシーズンチケットサービス部のチャールズが演じているのだ。アリーナ内に「リニューアル工場」もセットし、シーズンチケット保有者はその場で更新することが可能となっている。もちろん映画のようにゴールデンチケットがあり、抽選でアップルiMac、航空券、船旅クルーズ券、プラズマTVなどが当たる。特賞はシャキール・オニール選手とドウェイン・ウェイド選手とのミート&グリートがあり、直筆サイン入りジャージを直接受け取れる。
ちなみに私は、シーズンチケット更新プロセスの分析および来シーズンのシーズンチケット保有者維持予測に向けて、現在も様々なデータを収集している。これがリスクスコアモデル改善の材料になる予定である。
「しかし結局はチームのパフォーマンスや人気選手の存在がシーズンチケットの更新や売れ行きを左右するわけでしょ?」
とシーズンチケットを持つ友人に言われたことがある。確かにその二つは大きな要因だと思う。しかし、重要なのはそのチャンスが来たときに(チームも強く、人気選手が加入したときに)、チームのマーケティング部門、営業部門、そしてサービス部門はファンの心を掴み、満足させ、本当のファンにすることができるかどうかがビジネスサイドの成功の鍵になると考える。
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